【がん・基礎研究】野菜スープによるがん予防(熊本大学名誉教授・東北大学特別招聘プロフェッサー・前田浩)

1. H. Maeda, T. Katsuki, T. Akaike and R. Yasutake: High correlation between lipid peroxide radical and tumor-promoter effect: Suppression of tumor promotion in the Epstein-Barr virus/B-lymphocyte system and scavenging of alkyl peroxide radicals by various vegetable extracts. Jpn. J. Cancer Res., 83, 923-928 (1992)
2. T. Sawa, M. Nakao, T. Akaike, K. Ono and H. Maeda: Alkylperoxyl radical-scavenging activity of various flavonoids and other phenolic compounds: Implications for the antitumor-promoter effect of vegetables. J. Agric. Food Chem., 47, 397-402 (1999)
3. A. Kanazawa, T. Sawa, T Akaike and H. Maeda: Generation of lipid peroxyl radicals from oxidized edible oils and heme-iron. In Free Radicals in Food: Chemistry, Nutrition and Health Effects (eds. M. J. Morello, F. Shahidi and C. T. Ho), ACS Symposium Series; 807, Am. Chem. Soc., Washington, D.C., p. 282-300 (2002)

過剰の鉄分が発がんの頻度を高めることは識者の間ではよく知られている。その分子機構もこの分野の人にはよく知られている。これらに共通の原理は、鉄触媒による過酸化脂質(アルキルパーオキサイド、 R-OOH)生成であり、アルキルパーオキシラジカル(ROO・)となってDNA切断・変異株形成・殺菌作用などを示すのである。この論文ではROO・がホルボールミリステート酢酸と同様に、発がんプロモーター作用を有することを報告した(文献1)。具体的には、EBウイルスに感染したリンパ球がROO・によりトランスフォームするのを、野菜のゆで汁中に多量に存在するROO・消去物質が抑制することを見出した。驚くことには、このEBウイルスのトランスフォーメーション抑制は、生野菜をすりつぶした上清よりも、その加熱スープの方が数倍~百倍も強くなった。つまり、野菜スープががん予防に繋がる可能性があるということになる。それらの成分中には、各種フラボナイドやポリフェノール、カロテノイドが存在する(文献2)。また、精製食用油にはその抑制成分が失われているが、昔ながらの焙煎ナタネ油に強力な抗酸化(抗ROO・)成分を見出し(キャノロールと命名)、それに抗炎症作用・抗発癌作用があることを見出した。何れもいわゆるファイトケミカルががん予防に重要であるとの観点で共通である(文献3)。これらの理論をまとめた拙著「活性酸素と野菜の力-21世紀の健康を考える」は、専門家向けに2007年に上梓し、昨今の野菜スープブームの原点になったと言われている。この改訂増補版が2020年10月に出版されたことを追記したい。(文責:熊本大学名誉教授・東北大学特別招聘プロフェッサー・前田 浩)