【がん・基礎研究】Apc変異細胞から分泌されるNOTUMはクローン間の競合に影響して発がん過程を開始する(大塚製薬・宮本真吾)

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34079124/

Nature. 2021 Jun;594(7863):430-435. doi: 10.1038/s41586-021-03525-z.

NOTUM from Apc-mutant cells biases clonal competition to initiate cancer

 

がん抑制遺伝子として知られるAPCは、大腸がんで高頻度に変異が見られる遺伝子であり、変異により不活性化するとWNTリガンドの刺激なしにWNTシグナルが活性化することが知られています。本論文では、Apcを欠損した細胞がどのように腫瘍を形成するのかについて,周囲の正常細胞との関係性を詳しく検討しています。まず、小腸の正常部位とApc欠損により形成された腫瘍部位で発現しているmRNAを比較し、WNTのリガンドとしての作用を抑制するNOTUMが、腫瘍部位でのみ強く発現する分子であることを明らかにしました。さらに、Apc欠損細胞はNOTUMの分泌を介し、周囲の正常幹細胞の分化誘導および増殖抑制を引き起こすことで,自らの生存に有利な環境を作り出していることを示しました。最後に、NOTUMを持たないApcMin(家族性大腸腺腫症モデル)マウスを作成し、実際に腸管における腫瘍の形成が強く抑えられることを明らかにしました。これらの結果から、発がん初期段階では、NOTUMが正常細胞の増殖を抑制することが腫瘍形成に重要であり、NOTUMは発がん予防戦略の新たなターゲットになり得ると結論付けています。(文責:大塚製薬 宮本真吾)