【がん・基礎研究】高アミノ酸血症は膵神経内分泌腫瘍の形成に寄与するSLC38A5陽性α細胞を誘導する(名古屋大学・堀美香)

https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2020.100058

Cell Reports Medicine, Vol 1, Issue 5, 25 August 2020, 100058

Elevated Serum Amino Acids Induce a Subpopulation of Alpha Cells to Initiate Pancreatic Neuroendocrine Tumor Formation.

 

膵神経内分泌腫瘍 (PNET) は希少がんであり、一部の症例ではがん抑制遺伝子MEN1 変異、クロマチンリモデリングやテロメア維持に関わる ATRXDAXXmTOR関連遺伝子変異が同定されていますが、その分子機構や細胞起源は明らかになっていません。グルカゴンシグナルを遺伝的に欠損したヒトやマウスは高アミノ酸血症を呈し、加齢と共にPNETを発症します。本論文ではグルカゴン受容体遺伝子 (Gcgr) 欠損マウスや抗GCGR 抗体を投与した野生型マウスにおいてα細胞が増殖し、一部のα細胞ではアミノ酸トランスポーターSLC38A5の発現を認めました。SLC38A5は胎児期の膵臓で発現していることから、成獣マウスの膵α細胞の可塑性が示唆されました。Gcgr 欠損マウスのPNET では原因となる遺伝子変異は同定されませんでしたが、SLC38A5の発現が強く認められました。また、Gcgr 欠損マウスのPNETでは肝臓へのGcgr 遺伝子導入やラパマイシン処理により、腫瘍サイズの縮小が認められました。これらのことから、Gcgr欠損マウスのPNETでは遺伝子変異の寄与が小さく、グルカゴンシグナルの欠損がPNETの進展に寄与すること、SLC38A5陽性α細胞がPNET形成に寄与する可能性を示しました。(文責:名古屋大学・堀 美香)